ガス(メタン)ハイドレート -- 新しいフロンティア

ハイドレートはエネルギー資源と気候への主要な関係要素となる膨大な量のメタンを貯蔵しているが,ハイドレートへの自然のコントロールと環境への影響はほとんどわかっていない.

ガスハイドレートは天然に北極地域と海洋性堆積物の中に大量に存在している. ガスハイドレートは通常メタンであるガス分子と,そのそれぞれが水の分子のカゴによって取り囲まれている結晶質の固体である.水の氷と良く似ている.メタンハイドレートは300 mより大きな水深の大洋底の堆積物中で安定であり,それが存在するところでは,数百メートルの厚さの表層部の緩い堆積物をセメントすることが知られている.

ガスハイドレート中に結合している炭素の天然の存在量は内輪に見積もっても,今まで地球上に知られている化石燃料中に見られる炭素の量の2倍である.

この見積もりはアメリカ地質調査所(USGS)他の研究のわずかの情報に基づいて行われたものである.ハイドレートからのメタンを抽出すればは大量のエネルギーと石油の資源となりうる.さらに,在来型のガス資源が海洋性堆積物のメタンハイドレート層の下にトラップされているらしい.

USGSにより最近作成されたノースカロライナ州およびサウスカロライナ州沖の地図によりメタンハイドレートの大量の集積が示された.

それぞれがロードアイランド州ほどの大きさの対になった比較的狭い地帯が,ガスハイドレートの顕著な濃集域となっている.USGSの研究者たちはこれらの地域は1,300 兆立方フィート以上のメタンガスを含んでいると推定している.これは1989年のアメリカ合衆国のガスの消費量の70倍以上の量に当たる.ガスの一部は堆積物中の微生物によって作られたものであるが,一部はカロライナトラフの深部の地層からもたらされたものかも知れない.カロライナトラフは今まで石油の試掘がなされていない重要な石油ガスのフロンティア地域である.非常に大きな堆積盆であり,サウスカロライナ州程度の大きさで,おそらく13 km以上にもなる非常に厚い堆積層が集積している.ハイドレートガスに加えて岩塩ダイアピル,サンゴ礁,断層が存在していることから,在来型の石油ガスのトラップのポテンシャルが東海岸側の他の堆積盆よりも高い.

ガスの膨大な体積と堆積物の豊富さはメタンハイドレートがエネルギー資源として発達する可能性を大きくしている.

ガスは結晶構造の中に保持されているので,ガス分子は在来型のまたは他の非在来型のトラップの中のものより密に充填されている.ガスハイドレートでセメントされた地層はトラップされたフリーガスに対してシールとしても働く.これらのトラップは資源としての可能性を高めるが,同時に掘削の際の災害の原因となりうる.そのため,良く理解しておく必要がある.ハイドレートがシールしているとラップからのガスの生産はハイドレートのガスの抽出の簡単な方法となるかも知れない.というのは圧力の減少がハイドレートの分解を起こし,そのガスでトラップの再充填がおこるからである.

USGSの研究はガスハイドレートが大陸斜面での地滑りの原因となる可能性を示した.

5度以下の傾斜の海底斜面は大西洋側の大陸縁辺域で通常安定であるが,それでも多くの地滑りの跡が存在している.これらの崖の頂部の水深はハイドレート帯の頂部の水深に近く,反射地質断面は地滑りの跡の下にはハイドレートが少ないことを示している.現在利用可能な証拠はハイドレートの不安定さと大陸縁辺域における地滑りの発生が関係していることを示唆している.地滑りの発生のありそうなメカニズムとして,ハイドレート層の基底部でのハイドレートの分解が考えられる.この効果は半ばセメントされたゾーンからガスに充填された強度が小さい層への変化であり,地滑りを引き起こす.分解の原因は,海の水が巨大な氷床として陸に隔離された氷河期に起こったような海水準の低下によるハイドレートの上の圧力の減少かも知れない.

メタンは,気候の温暖化の原因としてみると炭酸ガスの10倍の効果を持つ”温室効果”ガスである.

ハイドレートに結合しているメタンは大気中のメタンの体積の約3,000倍に達する.どのような地質プロセスが堆積物中のハイドレートの安定性に影響し大気中にメタンを放出するのかを判断する情報はまだ不十分である.海水準の低下による地滑りの結果としてのメタンの放出は地球を暖め,北極の堆積物中のガスハイドレートが海水準の上昇期に暖まりメタンが放出される.このグローバルな温暖化は寒冷化の傾向に反対に働くので,気候のふらつきを安定化する,または気候の温暖化の時期にはより激しくさせるので気候を不安定化する.

USGSの研究の結果はメタンハイドレートは独特な音響的性質を持つことを示した.

ハイドレートの音速は非常に高く,そのためハイドレートでセメントされた堆積物の表層の速度も高い.ハイドレートでセメントされた堆積物の個々の音響的性質は良くわかっていないのでさらに研究が必要である.このような情報は防衛,地震探査,研究のために用いられる音響機器を使う際に重要である.

海洋堆積物中のメタンハイドレートの重要性を認識してUSGSはハイドレートが一般的に知られ,そしてエネルギー資源として,および気候,海底の安定性に関してハイドレートの影響が解析できるようないくつかの地域を選んで研究を集中した.

この段階では,USGSの科学者にとっていかにハイドレートが形成され,進化し,分解するか,いかにそれが堆積物に影響するか,そしてある地域でのその濃集をどのような因子がコントロールするかを知ることが,新しいハイドレートの集積を探査することと同様に重要である.測深の研究に関してNOAAと,ハイドレートガスの採取技術の適用に関してエネルギー省と,音響研究に関して海軍と,といった他の連邦機関との協力が将来の仕事の成功に有効であろう.

より詳細な情報に関してはDr. William Dillon, USGS, Woods Hole, MA 02543 (508) 457-2224または Dr. Keith Kvenvolden, USGS, Menlo Park, CA 94025 (415) 354-3213に連絡されたい.
1992年9月
1995/05/28
This page is translated from original USGS page and prepared by Manabu Tanahashi, tana@gsj.go.jp